相続法制の改正を考える(その3)

 相続法制の改正を考える(その3)

1.はじめに

前回は相続法制の改正のうちで,一番の中心的な課題とされた配偶者保護に関する改正点を説明致しました。今回は,遺言の利用促進のための規定の創設と,関係者の実質的な公平を図る規定の創設についてご説明致します。

2.遺言利用促進のための新設規定

(1)自筆証書遺言の方式の緩和規定の新設

自分で簡単に作成できる自筆証書による遺言の場合には,日付と署名押印のみならず,「遺言書の全文を自書する必要がある」と,その方式は厳格に定められています(民法968条)。

しかし,遺言の全文の自書をすることは,財産が多数ある場合には相当大変な作業となります。

そこで新民法968条2項で財産目録について以下のとおり規定されました。

ア.新民法968条の2項の内容

 自筆証書に,これと一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には,その目録については,自書することを要しない。

その場合において,遺言書はその目録の毎葉に署名し,印を押さなければならない。

イ.制度導入のメリットは何でしょうか

この規定により,パソコンで目録を作成したり,通帳や登記事項証明書のコピーを添付して,財産目録とすることができるようになりました。但し,その場合すべてのページに署名・押印をしておくことが必要となります。こうすることにより,遺言書の偽造や変造を防止することができます。

但し,その変更には,変更場所を指示して,その場所に署名・押印しなければならない(新民法968条3項)とされていますので注意が必要です。

(2)法務局での自筆証書遺言の保管制度(遺言書保管法)の創設

  ア.この法律の立法趣旨はどのようなものでしょうか

自筆証書遺言は,公正証書による遺言とは異なり,いつでも簡単に作成することができます。でも,自宅に保管されることが多いため,紛失したり,相続人の一部の者によって廃棄・改竄などが行われる可能性があり,そのため相続人間で紛争の生ずるおそれがありました。

そこで,法務局で自筆証書の遺言書を保管することによって,遺言の利用促進と遺言書の紛失や隠匿等の防止など図ることができるように,その保管を法律で定めたものです。

イ.利用の方法を示します

遺言者自身が住所地や本籍地などの遺言書保管所(法務局)へ出頭して保管手続きをします(その場合遺言書は,決められた様式で,封のないものであることが要求されます)。

ウ.効果を示します

① 相続開始後に,相続人は法務局で遺言書の写しの交付や閲覧が可能となります(遺言者の生存中は,遺言者以外は遺言書の閲覧ができません)。

② ①の場合,法務局から他の相続人に遺言書が保管されていることが通知されます。

③ この手続きを利用した場合,家庭裁判所での自筆証書遺言の検認手続きは不要となります。

④ 但し,この制度を利用しても保管後に遺言書の保管申請の撤回は可能です。

(3)この制度のねらいは何でしょうか

現時点では,遺言を残さず亡くなる人が相当数いることから,遺産の分配をめぐる無用な紛争を防ぐことを目的としています。

平成29年の統計によりますと,その年の死亡者の10分の1以下しか遺言書の作成が確認されていません(公正証書作成件数と検認件数の合計は,死亡者134万人に対して12万8000件足らずとされています)。

今回の法改正により,自筆証書遺言をより利用しやすいものとすることができます。

 

3.関係者の実質的な公平を図る規定の創設

  この点に関する規定の創設は2つあります。

(1)遺産分割前に処分された遺産の範囲に関する規定の新設

その内容は以下のとおりです。

ア.新民法906条の2の内容

 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても,共同相続人は,その全員の同意により,当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる(同条第1項)。

イ.この制度導入の目的は何でしょうか

この規定は,例えば不当に第三者又は相続人の一人によって処分された財産を,共同相続人全員の同意によるか,処分者以外の相続人の同意(同条第2項)により,その分を遺産分割の対象に含めて,不当な処分がなかった場合と同じ結果を実現できるようにするものです。

 

(2)特別の寄与制度の規定の新設(新民法1050条)

ア.この規定の目的は何でしょうか

相続人以外の親族が,被相続人の療養看護等を行った場合,相続人に対して金銭の支払いを請求することができるようにして,その貢献に報いるものです。

イ.新民法1050条の内容

① 改正の内容(1050条1項)

 被相続人に対して,無償で療養看護その他の労務の提供により,被相続人の財産の維持又は増加に特別に寄与した被相続人の親族は,相続人に対し,特別寄与料の支払いを請求することができる。

② 効果を示します

特別に寄与した親族(これを,「特別寄与者」といいます)は相続人に対し,「特別寄与料支払請求権」を取得します。各相続人は,特別寄与料を法定相続分に応じて負担することになります(1050条5項)。

③ 特別寄与料決定手続(1050条2項)はどうなっていますか

特別寄与料の支払金額は,当事者間の協議により決定します。これが調わない時は,家庭裁判所の審判によることになります。

④ 行使期間の制限(1050条2項の但書)があります

特別寄与者が相続開始及び相続人を知ったときから6カ月,又は相続開始から1年を経過した時は,もはや支払いを請求することはできません。

ウ.制度導入のメリットは何ですか

これまでは,相続人以外の者(例えば長男の妻)が,生前被相続人の介護に尽くしても,相続財産を取得することができませんでした。しかし,それを是正して,特別寄与者は他の相続人に対して金銭請求ができることとして,介護等の貢献に報いるようにしたものです。

 

4.改正法の施行時期を示します

(1)自筆証書の方式の緩和規定

この部分は2019年1月13日から施行済です。

(2)遺言書保管法

この法律は2020年7月10日から施行予定です。

(3)それ以外の規定部分

本稿のそれ以外の部分は,改正相続法の原則通り2019年7月1日からの施行です。