相続法制の改正を考える(その1)

相続法制の改正を考える(その1)

1.相続法制の大幅改正がされる

近年,民法典の相続法制が昭和55年以来の40年ぶりの大幅な見直しが行われました。相続法は,弁護士業務のみならず税理士業務においても重要で,国民生活にも密接にかかわるものだけに,その法改正の中味を正確に知っておく必要があります。

そこで,その改正の内容を皆さんに簡潔にご説明致します。

2.相続法改正の契機は何か

平成25年9月4日に最高裁判所で「非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1と定めた民法900条4号但書き前段の規定を違憲とする」旨の判断が示されました。そのため,この規定を削除する法案が出されたことが,相続法制を全般的に見直しをする契機となったと言われています。

それは,日本社会の少子高齢化の進展に伴う社会経済情勢の大きな変化が背景にあります。つまり,相続開始時に残された配偶者の年齢が相対的に高くなり,その生活保護の必要性が高まる一方で,少子化により相続人である子供の数が減少し,その取得割合も増加しつつあります。そこで,これらに見合った形で,相続法制全般の見直しの必要性が指摘されたのです。

そのため,相続法制の見直しに関する法務省の法制審議会の答申を踏まえ,以下の2つの法案が出されました。

第1の法案が「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案」です。

第2の法案が「法務局における遺言書の保管等に関する法律案」です。

この2つの法案は,2018年(平成30年)7月6日可決成立し,同月13日に公布されました。

 

3.今回の改正を3つの観点から検討します

さて,今回の法改正は,相続法全般に亘っていますが,大きく次の3つの観点からこれを鳥瞰することができます。

(1)第1の観点は,配偶者保護のための方策です

① 「持戻し免除の意思表示」の推定規定(新民法903条4項)

この規定は,特別受益者の相続分を算定するに当たり,その特別受益を受けた配偶者が,20年以上の夫婦として,居住の建物又はその敷地を遺贈又は贈与を受けた場合には,その分の評価を加算して相続分の計算をしなくとも良い旨の意思表示があった(これを「持ち戻し免除の意思表示」といいます)として推定する旨の規定です。

② 配偶者居住権(新民法1028~1036条)の新設

被相続人の配偶者の居住建物を対象に配偶者にその使用を認める法的権利を創設し,遺産分割等における選択肢の1つとしてこれを認めるものです。

③ 配偶者の短期居住権(新民法1037~1041条)の新設

被相続人の配偶者が相続開始時に遺産の建物に居住していた場合には,遺産分割が終了するまでの間,無償でその居住建物を使用できるようにするものです。

これらの規定はいずれも被相続人の死亡後に残された配偶者の居住権を保護するために認められたものです。

(2)第2の観点は,遺言の利用促進のための方策です

① 自筆証書遺言の方式の緩和(新民法968条関係)

これまでは自筆証書遺言をする場合には,遺言内容の全文,日付,氏名を自書しなくてはなりませんでした。しかし遺言内容のうち不動産や預金などの財産目録に関しては,自書する必要はなく,目録そのものに署名,押印するだけでよいことになりました。

② 遺言執行者の権限の明確化(新民法1007条,1012条~1016条)。

この規定は,遺言内容の円滑な実現を図るために遺言執行者の権限を明確化し,無用な紛争が生じないようにしたものです。

③ 法務局における自筆証書遺言書の保管制度の創設(遺言書保管法)

この制度を利用することにより,自筆証書遺言の紛失や隠匿等が防止できるようになりました。この制度を利用した場合には,「裁判所による自筆証書遺言の検認手続き」は不要となります。

(3)第3の観点は,相続人を含む利害関係人の実質的な公平を図るための見直しです

① 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲(新民法906条の2)に関する規定の創設です。

この規定は,遺産分割前に財産が例えば共同相続人の一人によって処分された場合には,他の共同相続人の同意の下に,処分をした共同相続人の取り分を組み戻し,処分前と同等にすることができるとするものです。

② 「特別の寄与制度」の導入があります(新民法1050条)

この制度は,相続人に該当しない親族(相続人の配偶者など)が被相続人に対し介護等の貢献を行った場合に,この貢献に報いるため,この者が相続人に対して金銭請求をすることができる制度を創設するものです。

 (4)それ以外の見直しで留意すべき主な点は次の通りです

① 遺産分割前の預貯金の払戻請求を認める制度の創設があります(新民法909条の2)。

この制度は,平成28年に最高裁判例が変更されて,預貯金も遺産分割の対象とすることとなったため,遺産分割が終了するまでの間は相続人単独では預貯金債権の払戻ができず,葬式費用の支払いや生活費の支出のため困ってしまうのを改善しました。

但し,単独で銀行等の窓口で払い戻しのできる額は預金額の3分の1に法定相続分を乗じた分に限ります(金融機関毎に150万円が上限となります)。

② 遺留分権利者の権利行使によって生ずる権利の金銭債権化の創設(新民法1046条)があります。

これまでは,遺留分の権利を行使すると,すべての財産について共有関係が生ずるとされていました。しかし,これをやめてすべて金銭債権化することになりました。これにより,遺留分侵害の対象不動産等を売却する必要性がなくなりました。

③ 「相続させる」旨の遺言等によって承継された債権が法定相続分を超える分について,対抗要件主義とする旨の規定の創設(新民法899条の2)がされました。

これによって,遺言書で法定相続分を超える分を共同相続人の一人に認めていても,法定相続分を超える分については対抗要件(登記等)を備えなければ第三者に対抗できないこととなりました。

 

4.改正法の施行日はいつかを示します

(1)第1の法律の施行日は次の通りです。

原則 2019年7月1日から施行です。

例外1 自筆証書遺言の方式緩和の部分は,2019年1月13日からです。

例外2 配偶者の居住の権利の部分は,2020年4月1日からです。

(2)第2の法律の施行日は次の通りです。

法務局における保管制度は,2020年7月10日から施行です。

5.まとめ

以上のとおり,相続法制の改正の規定の概観を示しました。これらの法改正の内容を知らないと,今後は業務に支障が生じかねませんので注意を要します。

新民法の改正条文を示しましたので,詳しくは条文を参照してみてください。