カナディアンロッキーの旅(その1)

カナディアンロッキーの旅(その1)

1.カナディアンロッキーの山歩きの旅の特徴

私達夫婦は,最近の10年は専らヨーロッパアルプス,なかでもシャモニーを起点にしたアルプスの山歩き・山登りが中心です。でもその前の約10年間は,カナディアンロッキーでの山歩きの旅が中心でした。それ以外にも,この間世界各地の山々を歩いています。今回は,その中でカナディアンロッキーでの山歩きの旅の話を紹介しましょう。

私達夫婦は,専ら海外での山歩き・山登りが中心で,日本の山で登っためぼしい山はせいぜい大山や六甲山などの西日本の山が中心でした。今後はもう少し日本の山も歩こうと思います。

そもそも私達が海外旅行に行くようになったのは,私が10年程勤めた事務所を退所して吹田市江坂の地に自分の事務所を持ち,誰に気兼ねすることもなく自由に海外にも行けるようになってからです。丁度その頃,西名阪超低周波の公害訴訟が和解で終了したところで,弁護団員とその家族でフィジー旅行をしたのが最初です。以後毎年のように外国へ行くようになりました。ある時スイスのツェルマットで泊まり,朝一番の登山電車で終点のゴルナグラードまで行って,そこからマッターホーンの麓を歩いたのがきっかけで,私達は山歩きに目ざめました。それからと言うものは,山歩きのできる海外の目ぼしい場所を探して出かけるようになりました。その1つにカナディアンロッキーがあったのです。

私達が経験した山歩きの中では,ヨーロッパアルプスとカナディアンロッキーが双璧でした。山々の美しさではヨーロッパアルプスが最高で,その美しさは圧倒的です。それに対し自然の雄大さではカナディアンロッキーが群を抜いています。例えて言えば,富士山が何百個も連なっている様な感覚です。それ位雄大な山脈がロッキー山脈です。ですから旅行のスタイルもヨーロッパアルプスでは1箇所の街(例えばシャモニーやツェルマット)に滞在してアルプスの山々を歩くのに対し,カナディアンロッキーでは,車で移動しながら各地を探索して歩くのが適していたのです。そこで私達のそんな広大なカナディアンロッキーの旅を御紹介しましょう。

 

2.カナディアンロッキーの旅の仕方

まず最初に,カナディアンロッキーとはどの辺りをさすのかを簡単に説明します。

ロッキー山脈は北米大陸のメキシコ,アメリカ,カナダの西側を南北に縦断する山脈で,そのうちの北に位置するカナダ国内の約1450㎞位をさすと言われています。これは日本の本州の長さに匹敵するものです。この広大なカナディアンロッキーを旅する際,私達が参考にしたのは,「カナディアンロッキーハイキング案内」(益田幸郎・益田晴子著・山と渓谷社出版)という本です。ここには多くのハイキングコースが載っており,少し古くなりましたが現在でも十分利用できるものと思います。

さて,私達は初期の海外旅行を除いて,原則として,既存の旅行会社のツアーには参加せず,自分達で飛行機と宿を予約して旅行をすることにしていました。それは旅行会社のツアーを利用するとかなり割高となることを知っていたからです。例えば当時,レイクルイーズの有名な最高級ホテルシャトーレイクルイーズでの宿泊費が現地で予約したら二人で1泊209ドルで済んだのが,旅行会社のツアーでは同じホテルが1人で2倍以上の約5万円の費用がかかっていることを知りました。ですから実際には,かかった費用はトータルで半額とはいいませんが3分の2位で十分同じところを旅することができたのです。

それではもう少し具体的に旅行のエッセンスをお話します。

(1)まず,移動手段からお話します

関西空港からバンクーバーを経由してカルガリーまで飛行機で行きます。飛行時間はバンクーバーまで8時間半,さらにカルガリーまでは約1時間と少しかかります。そして,着いたカルガリーの空港でレンタカーを借りました。(勿論予め日本で予約をしておきます。)カナダのレンタカー会社(ハーツかエイビスです)には,コンパクトカー(1500~2000ccクラス)に日本車が置いてあり,できる限りこれを借りるようにしました。それは日本車を借りていて大変助かったことがあるからです。カナナキス地方の山奥で車がパンクをしてしまった時,乗っていたのがトヨタ車だったため,日本でタイヤ交換の経験があり,タイヤの取り替えに苦労せず無事予定通りに目的地に着くことができました。(もし外国車だったら取扱い説明書を読むことからしなければならず,大変です。)広大なカナディアンロッキーは,車で各地を移動しないと公共交通機関が少ないので大変不便な旅となりかねません。私はカルガリーで車を借りて,バンフ・レイクルイーズ・ジャスパーを経てエドモントンの空港まで約800㎞位移動して車を返却することが多くありました。それ以外にもバンクーバーの空港で車を借りて,トランスカナダハイウェイ1号線を1000㎞以上移動してカナディアンロッキーに入り,そして帰りは同じ道をバンクーバーまで戻ったこともあります。このトランスカナダハイウェイ1号線は,バンクーバーからカナディアンロッキーを横断しており,カナダの西と東を結ぶ主要道路となっています。この道路でキャンピングカーをつないで走る車を多く見かけました。カナディアンロッキー内にはいたるところにキャンピングカーを止めるエリアがあり,カナダ人はキャンピングカーで旅行を楽しむ人が多いようです。

(2)次に宿をどのように決めたのかお話をします

カナディアンロッキー内での中心的観光地(バンフ,レイクルイーズ,ジャスパー)では,夏のシーズンは観光客が多いため宿は事前の予約が必要となります。でもそれ以外の場所をレンタカーで移動する場合にはあまり心配はいりませんでした。それはトランスカナダハイウェイ沿いにはモーテルが結構多く有り,“vacancy”の表示があれば比較的安く(80ドル位)泊まれたからです。私達は初日にカルガリー郊外のモーテルで泊まったり,思いきってバンフの手前20㎞のキャンモアまで行きそこで宿を探して泊まりました。必要に応じて泊まった宿から次の宿泊予定地の宿を予約すれば,ほとんどのところで泊まれました。但し,一度大失敗をしたことがあります。レイクルイーズからジャスパーへ向かっている最中,宿を見つけて泊まろうとしましたがタッチの差でその宿をとりそこねてしまい,結局ジャスパーを過ぎて100㎞以上の先の小さな町まで宿を求めていくはめになってしまったのです。この時はうす汚い宿で一夜をあかし,翌日ジャスパーまで戻りました。

この時の教訓として,観光地の周辺では昼間の3時位までに泊まる宿を決めないと空いている宿がなくなってしまうこともあるので,余裕をもって早めに宿を決める必要があるということです。(特にジャスパー周辺では要注意です。)

ところで,カナディアンロッキーには,数多くのナショナルパークがあり,そこには必ず「Info.」の表示のある観光案内所があります。そこで国立公園内の山歩きの案内地図をもらったりする外,宿泊場所の情報を載せてあるアコモデーションガイドの冊子がありますので,それをもらって次の宿を物色することが多かったと思います。でも車で移動する場合,基本的には観光地から少し離れたところに宿をとる覚悟をしておけば,予約がない場合でもあまり心配することはありませんでした。このアコモデーションガイドの冊子は翌年に,宿を予約する時にも大変役に立ちました。

(3)最後に買い物(食べ物)の話をしておきましょう

私達は海外旅行をする際,原則として自炊をすることにしていました。日本から旅行用の電気ポット(鍋)を必ず持参し,宿でお湯をわかしインスタントラーメンを作ったり,味噌汁を作ります(但し,国によって三つ股コンセントを予め用意しておく必要がありますので気を付けて下さい)。カルガリー,バンフ,レイクルイーズ,ジャスパーには,日本食品を備えてあるスーパーがあり,ここで果物,インスタントラーメンやパン,ハム,サラダ等を買い,山歩き用の昼食を準備したのです。ですから,カルガリーでレンタカーを借りたら,すぐ市内でスーパーを探し,以後の食料を調達することにしていました。そして移動する度に次の宿を確保すると同時に食料を買い足して旅行を続けたのです。レンタカーの場合,このように臨機応変に対応できるから都合が良かったのです。

結局宿に泊まっても私達は買い込んだ食料で自炊をしましたから費用はかなり安くおさえることができました。おそらく外食の半分以下でしょう。カナディアンロッキーで高級ホテルに泊まり,豪華な食事をすることが目的ではありませんでしたから,これで私達は十分満足できたのです。それでも,時々日本食が恋しくなりましたが,ジャスパーで日本食を出してくれる店や食べ物店を見つけましたので,これで少し安心しました。

ここで,買い物の件をお話しましょう。中心的観光地には,みやげ物店や山の用品をそろえた店が多くあります。その中で妻の京子は,カルガリーでマウンテンコープを見つけ,そこの会員となり,必要に応じ山用品を調達しました。日本で買うより安くて機能的なものが多くあったからです。そのため京子の山用品の大半は外国で購入したもので占められています。しかしその場合カードで買い物をするため,どうしても高い物を購入してしまいがちです。ところが,同じ物が日本の店ではさらに高額になっており,驚くことがよくありました。山用品などは現地で調達する方が素敵なものが多いようです。

以上述べたことを念頭に,カナディアンロッキーの旅の具体的内容に踏み込んでお話したいと思います。但し,ここで述べたことに頭を使うのは大変だと思ったら,旅行会社のツアーに申し込めば,移動手段,宿,食事などの心配はしなくとも良いでしょう。でもその分確実に割高となることは間違いありませんが・・・。最近は現地での日本人向けの山歩きのツアーもあるようです。これをうまく利用すれば,比較的気軽に山歩きが楽しめるのかもしれません。

カナディアンロッキーの旅(その2)

カナディアンロッキーの旅(その2) 

3.目的地の選定をする

広いカナディアンロッキーには,おそらく数百以上のトレイルがあり,見どころも一杯あると思います。その中から限られた期間内で,散策することができる素敵な場所を選定することは,なかなか大変です。

そこで,私達がどうやって見どころを選定して歩き回ったのかをお話しします。

私達がカナディアンロッキーを歩いた時期は,8月の夏休みとなる期間の約2週間でした。この時期は,裁判所も更替で休みとなり,ほとんど裁判の期日が入らないから山歩きには好都合です。2週間と言っても往復は1泊ずつ飛行機内泊となるから,概ね12日間がロッキー内で移動できる期間となります。

そこで,その間を前半と後半に分けて,広いカナディアンロッキーの中でメインとなる場所を決めて動きました。その時基点にしたのがカナディアンロッキーのナショナルパークの中にある山小屋(ロッジ)です。この方法はいろいろな山小屋(ロッジ)に泊まりながら付近の雄大な自然を楽しむという方法です。山小屋と言っても30人以上も泊まれるものもあり,小さな山岳ホテルのような印象を持ちました。これらの山小屋(ロッジ)にはヘリコプターで入山したり,馬で入山したり,ハイキング(かなり長距離となります)で入山したりします。このような楽しみ方をロッジンクと言うようです。

私達が参考にした「カナディアンロッキーハイキング案内」の中に,いろいろなロッジの案内があり,事前に予約をして行くことになります。概ね1週間単位で予定が組んであり,3泊4日または2泊3日でローテーションとなっています。勿論山小屋には定員制限があるので,同じ機会に入山したメンバーと一緒に付近の自然をゆったりと楽しむことができるのです。私達は1回の旅行で多い時には前半と後半に2箇所のロッジに泊まることもありました。でも大体は前半に1箇所のロッジに泊まり,その間隙をぬってカナディアンロッキーを車で移動しながら,ハイキングをしつつ山や湖を回るという方法をとりました。

私達がメインとして泊まった山小屋(ロッジ)は,①パーセルロッジ,②アシニボインロッジ,③バカブーロッジ,④ミスタヤロッジ,⑤フォートレストレイクロッジ,⑥シャドウレイクロッジ,⑦オールソンズロッジ,⑧ディクソンズチャーレーなどです。このうち①から⑤はヘリで,⑦と⑧は馬に乗って,⑥はハイキングで4時間から5時間もかけて入山するのです。ヘリで入山する場合は,近いところで約10分位,遠いところで40分位のフライトですが,ヘリからの景色が素晴らしく印象的でした。でもヘリを使うと滞在費が少々高くなるのが玉に疵です。馬での入山は5時間・6時間かけて目的地へ行きますが,途中でお尻が痛くなり,足がしびれてしまいます。でも日本ではなかなか味わえない乗馬体験でした。

そこで,各々の山小屋での出来事で印象深かったことをお話しします。

 

4.印象深いロッジでの出来事を語る

(1)トンキンバリーの2つのロッジ

私達が訪れたロッジの中で一番印象に残ったところは,ジャスパーナショナルパーク内にあるトンキン・バリー(Tonguin Valley)のオルソンズロッジとディクソンズ・シャレーです。この2つのロッジはいずれもアメジストレイク(Amethyst Lake)の東岸と北岸にあります。この湖はニジマス釣りで有名なところで,馬に乗って(これをホースバックライディングといいます)5時間から6時間かけて入山します。この2つのロッジはいずれもニジマス釣りとホースバックライディングを満喫させてくれることで人気があるようです。

ここでカナディアンロッキーでのホースバックライディングの説明を少ししておきます。私達はトンキンバリーのロッジで長時間乗馬をしながら入山をすることになっているロッジを案内文で知りました。そこで,乗馬の練習のため,私の事務所の近くの緑地公園の乗馬クラブに行って練習をしました。全く乗馬の経験がなかったからです。ここで教わったことは,馬の背中に乗りながら馬の歩行に併せて足で踏んばり,上下動をしてお尻を浮かせて乗る方法です。そうしないと歩くたび馬の背骨がお尻にあたり痛いからです。この練習を日本の乗馬クラブで3~4回してから,カナディアンロッキーのトンキンバリーへの登山口にある小さな牧場に車で行きました。ところが,そこで乗馬で移動する際教えてくれたことは,右に曲がる時には右手で,左に曲がる時は左手で手綱を引く,そして止まる時は両手で手綱を引くという,ごく簡単な説明をしただけです。そしてすぐに馬に乗って歩き出しました。日本で練習したように馬の歩行に併せてお尻を持ち上げなくとも痛くありません。それはカナダの馬は背中が広く,巾の広いサドルのため(ウェスタンサドルというらしいです)馬の背骨で下からつき上げられることがほとんどなかったからです(日本の馬は幅の狭いイングリッシュサドルがついていますから大変です)。でも5時間も6時間も馬に乗るとさすがにお尻や足がしびれてしまいます。でも必死に頑張って馬に乗って20km以上も山奥へ進み,目的地のアメジストレイクの麓のロッジにたどりついたのです。

この経験は衝撃的でした。これですっかり乗馬に慣れて好きになりました。馬は隊列に遅れそうになると軽くギャロップをしてくれます。残念なことに馬が全力で走り出すことはありませんでしたが,馬でカナディアンロッキーのメドウ(草原)の中を歩き回る楽しさを体験できました。話は変わりますが,最近韓国の時代劇で馬に乗り,全力疾走するシーンを時々見ます。あれは,かなり危険なことで,俳優さんが落馬して怪我をすることがあるそうです。でも一度位は馬で全力疾走してみたいと思ったものです。

ここのロッジでは,ウォーキングの他にフィッシングをするか,ホースバックライディングをすることがメインとなります。私達は当然ホースバックライディングを希望しました。ところが,その途中でカナディアンロッキーにいるグリズリー(灰色熊)に出会いました。グリズリーは立ち上がると2m近くにもなり非常に危険な熊です。馬と同じ位のスピードで走りますので,追いかけられたら逃げられません。

でも,この時は我々が馬で隊列を組んでいたので,我々に向かってくることはありませんでした。そのため,ビデオカメラでグリズリーを撮影することができました。その日の夕方,ナショナルパークを警備しているパークレンジャーがヘリで「グリズリーが出たから気をつけるように」と呼びかけていました。グリズリーにおそわれたら大変なことになるからです。ここでは”You are in Bear Country”と言われ,ナショナルパーク内に時々熊に襲われて死亡した人の石碑が残っています。

夕食には,その日に釣れたニジマスが焼かれていました。夜には釣りに来たメンバーの部屋でパーティーが始まります。私は日本の歌を歌いながら楽しくすごしました。ところが帰る時になり,釣りをしに来た親子連れが私のところへ来て,「来年もこの時期にアメジストレイクに来るから,お前も来ないか」と言うのです。私は笑って返事をせず,おみやげ用に日本から持って来ていた箸をあげ,お礼を言って別れました。この親子連れは,毎年ここに来てニジマス釣りをしているようでした。

トンキンバリーの2つのロッジ(合計2回行っています)でのホースバックライディングは,私達にカナディアンロッキーでの新しい楽しみ方を教えてくれたのでした。

(2)マウントアシニボインロッジでの出会い

次に,私達がすばらしい出会いを経験したのが,バンフナショナルパークから進み,隣のマウントアシニボイン(Mount Assiniboine)州立公園内にあるマウントアシニボインロッジでのことです。マウントアシニボイン(3618m)が間近に見えるこのロッジは,1928年に建てられたという伝統ある山小屋です。すぐ前にレイクメイゴック(Lake Magog)があり,景色の素晴らしいところです。

ここへの入山方法はキャンモア(Canmore)から車で42km程入ったヘリポートからヘリで(約10分です)入山するか,そこから約26.7kmを歩いて入山するかの方法です。私達は,往きはヘリで,帰りは歩いて下山する方法を選びました。26.7km歩くのはかなり大変でしたが,同時に下山する女性達と一緒に歩いたのです。(カナダの女性は背が高く足が早くてついていくのは大変でした)

ここのロッジで素敵な出会いがありました。私達がロッジの周りを散歩していると,スケッチブックを持って回りの風景を写生する熟年夫婦を見つけました。京子はそれを見て”Your hobby is good”と声をかけたのです。すると,男性が”Not hobby, professional”と答えました。彼はジャスパーのみやげ物店などで絵葉書きなどの絵を描いている画家だったのです。リタイアする前は地元の新聞社で風刺画などを描いていたということでした。名前をヤーデリーショーンズ(略してヤーデルといいます)といい,エドモントンに住んでいるということで,足の悪い奥さんのメアリーを連れてこの辺りの風景の写生をするために来ていたのです。

私達はすっかり仲良くなり,いろいろ話をしているとヤーデルが「私達の似顔絵を描いてやろう」と言い出し,私達の写真を撮り,似顔絵を日本へ送ってくれることになりました。ヤーデルがこの時描いて送ってくれた似顔絵は,私の事務所に今も大切にかざってあります。ほんとうはマウントアシニボインには登っていないのに登ったように描いてありますので,事務所に来た時に皆様には是非お見せしたいと思います。それ以外にもヤーデルの絵が何枚か飾ってあります。

この時の出会いが縁で,私達はカナディアンロッキーに来た時には帰りにカルガリーではなくエドモントンの空港から帰ることにして,前日には,ヤーデルの家へ遊びに行く予定を組み,合計4回程行きました。日本からのお土産に,京子の父親が収集していた日本の掛軸を持参すると,画家のヤーデルは大変喜んでくれました。夫婦には6人の子供がおり,独立して孫が10数人もいるとのことで,メアリーは「この家族全員が私の宝物だ」と言って写真を見せて自慢をしていました。その後しばらくは,クリスマスカードを交換していましたが,メアリーは亡くなり,ヤーデルも引越し,連絡がとれなくなってしまいました。でもカナディアンロッキーの旅で私達の忘れられない思い出の1つとなっています。

カナディアンロッキーの旅(その3)

カナディアンロッキーの旅(その3)

5.カナディアンロッキーでの印象深い出来事を語る

(1)ホットスプリングスをめぐる

カナディアンロッキーの旅ではいろんな経験をしています。その中で,少し変わった出来事は,山歩きの後疲れた体を癒すのに都合の良いホットスプリングス(温泉)が各地にあり,山歩きの後そこに入浴しに行ったということです。

その中でも,町の名前が温泉そのものを表すラジウム・ホットスプリングス(Radium Hot Springs) が有名です。ゴールデンから,トランスカナダハイウェイ95号線を南に下り,93号線に合流したところにラジウム・ホットスプリングスがあります。山間にある,大きな温泉プールで,日本のひなびた温泉とは違い,水着を着て入り,泳ぐこともできるくらい大きな温泉プールです。ここで,入浴していた時,カリブーロッジのガイドスタッフで,我々を山歩きへと案内してくれたウェンディに会い,彼女も疲れた体を癒しに来ていました。山歩きで疲れた時にはホットスプリングスでの入浴は最高です。

それ以外にも,私達はジャスパーから東のエドモントンの方向に車で1時間位走ったところに,ミエッテ・ホットスプリングス(Miette Hot Springs) があり,ここの温泉プールにも入っています。雄大な自然の中にあるホットスプリングスは,ホテルでの風呂やプールとは違って,青空の下で開放感のある憩いの場となっています。レンタカーで移動していたため,各地のホットスプリングスめぐりが可能となるのです。

他にはバンフにあるホットスプリングス(Upper Hot Springsといいます)にも入っています。いずれもナショナルパークが管理・運営するもので安い入湯料で入ることができます。

(2)カナディアンロッキーの湖は美しい宝石のよう

カナディアンロッキーを旅する中で,色々な山や湖をめぐり,その周辺を歩いています。そこで感じたのは,湖の色の美しさということです。エメラルドグリーンの美しさを誇るエメラルドレイクや,透明で澄んだ色のボーレイク(ここでは湖の周辺をホースバックライディングで回りました)。それ以外にも乳白色がかったブルーの湖が至る所にあり,本当にきれいな色の湖が多いのです。しかもその色が場所により少しずつ違います。何が原因でこのような色になるのかわかりません。氷河や雪解け水が流れ込むと乳白色となっているのは,ヨーロッパアルプスでも体験していますが,カナディアンロッキーの湖の色はそこにブルーの色が混入しており,きれいな宝石のような色をしているのです。ところで透明で澄んだ色のボーレイクで,朝日があたる早朝には,色が乳白色変わって見えるのを発見しました。不思議な現象です。

(3)いろいろなアクティビティも経験しました

フォートレストレイクロッジは,湖のほとりにありましたので,ここでカヤッキングを体験しました。乗ったのは,二人乗りのカヤックでしたが,乗り込んでから足でペダルのようなものを踏み込みながらカヤックの後部についたヒレのようなもので方向を調整しながら進むようになっています。湖の中をカヤックでゆっくりと進んで対岸へ行き,そこから静寂な森の中を散策したのでした。

バカブーロッジでは,近くの小さな湖で参加者間のカヌー競争をしました。これも二人1組でチームを作り,右側用と左側用のオールを2人で分担して漕ぎ,早さを競うのです。2人で左右のバランスを取らないと素早くまっすぐに進みません。京子はアメリカ人の女性と組み,バランス良く進み,相手チームを圧倒しました。これは,ロッジの宿泊者同士が仲良くなる工夫でしょうか。終わった後は,キャンプファイヤーで交流を深めたのです。

カナディアンロッキーの中を流れるキッキングホースリバーでは,ラフティングを体験しています。大きなゴムボートに,ヘルメットとライフジャケットを着て,数名で乗り込み,急流を下ります。川の水は雪解け水ですから非常に冷たいですが,夏場でしたからあまり気にならず急流を下ることができました。でも途中,滝壺のようなところで,ゴムボートから降りて,近くの岩の上から川の中心に向かって飛び込むように言われました。私は挑戦しませんでしたが,京子はそれにチャレンジしたところ,「水の中は心臓が凍るかと思う程冷たかった」とのことです。キッキングホースリバーとは「暴れ馬の川」という意味でしょうから,何となく急流を下るラフティングの様子が想像できますネ。

バカブーロッジでは,ヘリハイクを体験しました。これはロッジの近くの山の頂までヘリでいき,そこからハイキングをするものです。下から歩いて山頂に行くのと違い,いきなり山頂まで連れて行ってもらい,山の尾根を歩くのですから,体力はあまりいりません。そこで,高山植物や小動物を探しながら,ゆっくり歩くのも楽しいものでした。その最中にモスキャンピオン(Moss Campion)という岩にへばりついて生えているピンク色の小さな植物を知りました。いろいろな高山植物の写真を撮りながら歩く熟年夫婦もいて楽しいものでした。

(4)小熊のベリーピッキングに驚く

フォートレストレイクロッジでは,驚きの体験をしました。私達が泊まっていた小さなテント風のロッジでのことです。明け方に外でごそごそと音がしました。風が吹いているのかと思っていたら,朝起きてみると外に置いてあった京子の登山靴の底がかみ切られていたのです。犯人は子熊でした。近くにはたくさんベリーが生えており,子熊がそれを食べに来ていたのです。やむを得ず京子は底の破れた靴をテープで補強して旅を続けたのです。カナディアンロッキーにはいろんなベリー(いちご)がはえており,ベリーピッキングを楽しむと聞いたことがありました。

 

6.最後にマウントロブソンでのキャンプ巡りをお話しします

(1)初めてのキャンプを体験する

私達はカナディアンロッキーでは主に宿に泊まりながらハイキングやトレッキング中心の旅をしていました。でもカナディアンロッキーで唯一キャンプを経験したことがあります。それがマウントロブソン(Mount Robson)のキャンプグランドでのキャンプです。

マウントロブソンは,カナディアンロッキー山脈の中では最高峰の山(3954m)で,1913年に初登頂されて以来,人気のある山となっています。

マウントロブソンへの登頂を目指すキャンプグランドまで行くには,登山口から歩くより方法はなく,途中,宿泊施設がないため,通常はテントの用意が必要となります。私達はテントを準備していなかったので,ロブソンアドベンチャーセンターに行き,そこからマウントロブソンが正面に見えるバークレイク(Berg Lake) のキャンプグラウンドまでヘリで連れて行ってもらうことを選択しました(勿論事前に予約しておく必要があります)。

ところが,指定された朝8時にアドベンチャーセンターに行ってみると誰もおりません。おかしいと思って中を覗いてみると,京子が「まだ7時だ」と叫びました。マウントロブソンはブリティッシュコロンビア(British Columnia)州にあり,私達がいた隣のアルバータ(Alberta)州より1時間遅いことに気が付いたのです。アルバータ州はこの時期,山時間(マウンティンタイム)で通常より1時間早いのです。しばらくして,7時半頃にガイドのBrentがやってきました。彼は,「我々が時間を間違えているかもしれない」と少し早めに来てくれました。

マウントロブソンは,ブリティッシュコロンビア州のマウントロブソン州立公園内にあり,東側はアルバータ州のジャスパーナショナルパークに隣接しています。通常バークレイクのキャンプ場へ行くには,ジャスパーから車で西へ約1時間と少しかけて登山口に行き,そこで車を降りて,山道を21キロ歩いて,目的地へ行きます。そのため往復するにはテントの準備が必要となるのです。

我々は,マウントロブソンのキャンプグランドでの滞在が旅の目的ではなかったため,キャンプ用品の準備はしていませんでした。そのため,アドベンチャーセンターのBrentにキャンプ用具の準備を全て委ねて,ヘリでキャンプグランドまで飛んだのです。

そこでテントを張り泊まることにしました。ここはバークレイクとマウントロブソンが正面に見える素晴らしいところでした。カナディアンロッキーの旅で初めてのキャンプの体験でした。

(2)マウントロブソン山頂がめずらしく晴れ渡る

翌朝6時半に起きて,マウントロブソンを見上げると,頂上付近にある雲が跡切れ,徐々に晴れてきました。しばらくしてBrentはUnbelievableを連発します。この辺は雨が多い地域で,なかなかマウントロブソンの頂上は晴れることがないらしく,ところがこの日は珍しく9時前頃には完全に頂上が晴れて山の全貌が見えたのです。

この日の午前中私達は,ロブソングレーシャーへ行き,氷河の上を歩きました。氷河の上は滑りやすくクレパスに落ちたら大変です。でも少しずつ氷河が迫り上がり,解けて小さくなっているのがわかりました。現在と昔の比較のため,数10年前の氷河の位置が表示されていたからです。地球の温暖化の影響が表れているのでしょう。

氷河から戻ってみると,昼食用のバーガーをカラスに盗まれてしまったことがわかりました。Brentは謝りましたが,我々は正直言ってテントでの食事には期待していなかったので気になりませんでした。

そして,その後,次のキャンプ地のホワイトホーンキャンプグランドに向かうことにしました。

(3)日本人の登山グループと出会う

その途中で,2人の日本人連れに出会いました。彼らのパーティーが「マウントロブソンで一番難しいと言われている南の壁面からの登頂を目指している」とのことで,相模原の山岳会のメンバーでした。しかし,「登頂隊と連絡がとれず心配だ」と言いつつ,「もし予定の時間を過ぎても戻らなければ,自動的に救援隊が出ることになっている」と説明してくれました。この日は登頂隊が山頂の直下で「ビバーグ」しているはずだとのことでした。

2日目のキャンプも何とか乗り切れました。我々は次の休憩地のキニーレイクへ向かって山を下りました。するとそこで前日の相模原の山岳会のメンバーが待機しており,登頂隊からの連絡を待っていました。その時交信が入り,「昨日の朝9時15分頃に登頂に成功した」との連絡です。思わず歓声が上がりました。メンバーは女性を含む6人で,3人が登頂を目指していたとのこと,丁度BrentがUnbelievableを連発したあの直後に登頂に成功したようです。2度目のチャレンジとのことでした。

さて,このキャンプ巡りで知らされたことは,自然の厳しさと偉大さです。これでもかこれでもかと自然は人間に迫ってきます。その中で人間は自然と共に生きていることを知らされた日々でした。

京子はそれ以来,「自分もマウントロブソンにチャレンジしてみたい」と言い出しており,「機会があれば」と考えているようです。

 

7.結びにかえて

カナディアンロッキーの旅は,一言でいえば,自然の中で生きている自分を知る旅でした。あまりにも雄大な自然に圧倒されながらも,そこにぽつんと存在している自分を感じながらの旅です。でもこの時にはまだ山登りにチャレンジするというより,「自然とどのようにかかわるのか」ということが目的の旅だったと思います。

その後はヨーロッパアルプスの山歩きを体験する中で,徐々に山登りの旅へと変化してゆきました。

私たちはカナディアンロッキーの雄大な自然に触れることができ,感謝したいと思っています。